―そう現実、現実、現実、現と実、現の実、現れている実、そう現実、現の実在、現の存在、実存する現在、そう現実、現の事実、現実に実現される現在、現れる現実、実現する現実、現在の実、現実の実現、現実現実現実現―
***
反対側のホームの向こうに海が見える。
パームツリーがさわさわ揺れている。海面には朝日が乱反射している。浮子は通学鞄から一枚の写真、それからサングラスの片方のレンズを取り出し、レンズ越しに写真と水面を何度も見比べている。反射する光が時折連なって、瞬間、文字の様な形を成しかける。浮子はそれを注意深く見つめ続けている。
駅は閑散としていてほとんど人がいない。中学に入りたての頃、複数人の高校生がいたが浮子が2年生になると卒業したのだろう、姿を見せなくなってしまった。それから4年間、ホームで決まった時間に電車を定期的に待つのは浮子だけになった。浮子が高校にあがる頃、3歳年下の妹が同じ中学に入ったが、浮子とは逆の性格の彼女は当初より部活早朝練習に忙しく、二人が一緒にホームに立つ事は稀だった。
一人きりのホームは、最初は淋しい気がしたが直に慣れ、その後は浮子はこの静かな待つ時間が好きになった。テストの暗記の練習をした。好きな歌を口ずさんだ。真っ白な雪に包まれたホームに足跡をつけた。無防備な鳥が隣で休んでいた。何よりぼやあとしていられるのが良かった。年齢を重ねるにつれて、日常をこなす事についてどこか息苦しさと言いようも無い違和感を覚えていった浮子にとって、この待ち時間は数少ない心安くなれる時間になっていた。
日々の重荷が増えるにしたがって、浮子はこの時間でますますぼんやりしていた。目を開いて前を見ているがどこにも焦点は合わせず、自意識がほどけるのを何となく感じていた。夢を見ているのとは違うが、どこか似た雰囲気だった。何か柔らかい膜に包まれて音が遠のき、世界が剥がれてしまう様な感覚を覚えた。気のせいかも知れないが、何か大事なものを思い出せそうだった。とりとめもないイメージが浮かんでは消えていたが、浮子はそれらをそのままに、夢うつつのままにさせておいた。
ホームからの景色はまったく静的だった。唯一、動的な輪郭を有しているのは水面の乱反射だけであり、そのぼおっとした意識状態にあってもそれらの光はくっきりとその姿を浮子に投げかけてきた。ぎらっとした光の粒達はある瞬間、連なって線となり、構成点を介して文字の様に見えなくもなかった。しかし彼女は最初は何とも気に留めていなかった。
高校に入った時、貯めたおこずかいで小さなカメラを買った浮子は、そのホームの景色を見たいと思って、ある朝それを撮影した。それからかねてからの小さな夢を叶えたかった浮子は、妹にあるお願いをした。それは浮子がその景色の中に入り込むというものだった。
というのも以前、浮子はホームから見える海の箇所まで泳いでいって、そして海面の光を存分に味わい、そしてしばらくぷかぷかと天を仰いで浮かんだ事があったからだ。耳に水が入って音が消え、視界の端に乱反射の欠片が見えて、青々とした空と白い陽があった。いつも見ている光の中にいるのだ、と思うと意外にも興奮は無く、むしろ言いようも無い安心感を覚えた。そのまま空を見ているとにわかに上下が反転し、浮子は空に落ちてしまいそうな気がして何とも言えない不思議な、でもとても嬉しい気持ちになった。周囲の水面に光が反射するように、海水にまみれた浮子の身体にも同様に反射しているはずだった。
そういう経験があったので是非ともその様子を客観的に見てみたいと思ったのだ。撮影は妹に頼む事にし、10本のシルクムーン社製のアップルサイダーで妹は手を打った。
そしてある休日、妹はホームで待ち構えていた。砂浜に待機していた浮子は携帯で彼女に「これから入るよ」と伝え、海の中に入る。いつもホームから海を見ている浮子にはどの辺りまで入れば良いか、ちゃんと分かっている。彼女はその地点まで泳いでそれからちゃぷちゃぷ浮かんで、ホームの方を見る。ホームには妹が立っているのが見える。妹は腕をわっかにして、OKのポーズをする。写真が撮れたという事だ。後は、妹の撮った写真に写る自分を切り抜いて、あの景色の写真に貼り付けるだけだ。そうすればいつも朝に見ているあの乱反射の中に自分が居る。妹は、何が面白いのかさっぱりと呆れたが、これが浮子の小さな夢だった。
その後、海から上がった砂浜に何か光るものがあった。それはサングラスの片方の茶色いレンズだった。浮子はそれが海からのプレゼントだと思ったから記念にそれを持って帰った。
それからは、ホームで景色を見ては写真を見て、浮子は嬉しがった。理由を具体的に言う事はできないけれど、自分だけの宝物を見つけた気になった。自分はホームから海を見ているが、写真の中では自分がその海にいるのだ。ふと拾ったレンズで海を見たら乱反射が眩しくなくて、よりくっきりと見やすかった。そうして見ている内にある事に気がついた。乱反射が瞬間的に文字を形成する様に見えた事は今まであったが、それらにパターンがある気がしたのだ。よくよく気をつけて見てメモをした結果、どうやら現れる文字は、アルファベットで、A、L、R、T、Wだった。それらは何かの鍵だと思うと浮子はどきどきした。ぼんやりした時にそれらの文字を思うと、記憶でも予感でもないがそれに似たある重要なものに気づく手がかりに思えた。ほら、あれ、あの事。喉元まで出掛かっていた。乱反射はそれをこちらに投げかけてきている。浮子もそれを見ている。後はアルファベットを並べるだけに思えた。ぼんやりした頭の奥は確かにもう気づいている。ホームの静けさがそれを煽る。
反対側のホームの向こうに海が見える。
パームツリーがさわさわ揺れている。海面には朝日が乱反射している。浮子は通学鞄から一枚の写真、それからサングラスの片方のレンズを取り出し、レンズ越しに写真と水面を何度も見比べている。
今では、もう文字がくっきり見えている。あとはそのパターンが何を表すか、だ。浮子は、生まれた時からあるお腹のあざをさすりながら、注意深く見つめ続けている。同時にぼんやりしているので頭の中には何も無いが、芯はくっきりしていて光と共鳴している。写真の中ではきらめくものに囲まれた自分がいる。
*
最初はWだ。A、L?TR、AWR、LA…?繰り返しているのだろうか。口に呟く。ワ、ルター?アワルラ…?ワルターアワルラ…?ああ、来る。そこにもう来て現われようとしている。頭の裏側でパズルが組み合わさる感じ。そう、もう分かった。一度も唱えた事がないけれど、確信に満ちている。浮子は目を開いて呟く。
「ワルトラ・ワーラ…」
***
夜の砂漠は月明かりに覆われて、限りなくどこまでも白く冷たく、深海を思わせる。遠くでさわさわと鳴る風の音と、キャラバンのメンバーの足音だけが薄く響く。見上げれば青黒い空が重苦しく横たわっている。
2週間とちょっと前の朝、父親はボクを揺り起こしてメンバーに選ばれた事を喜んで伝えた。77年に一度の行事を行うための任務を担う一人として、司祭に指名されたというのだ。ボクは困惑しながらも、他の10人のメンバーと共に盛大に送り出された。遠方の僻地に立つワルトラワーラの塔に居る王様に石板を持っていくのだ。この町から選出されるとは聞いていたものの、まさか自分の様な若者が選ばれるとは思ってもいなかった。他の人たちは男性ばかりでボクより年齢も体力も上の人ばかりだった。父親は万一に備えボクの髪を切り男装をさせた。
最初は和気あいあいと、塔の王様は長寿を求めるあまり蛇になってしまった魔法使いだとか、石板を届けたお礼に一生働かなくて住む報酬が得られるだとか、まことしやかな噂をし合っていた。しかしどこまでも続く単調な砂漠の旅、しかも日中はあまりの暑さなので、夜にひっそりと歩かねばならず、次第に口を開く者はいなくなった。中には乳飲み子の父親もいる。年老いた親を残してきた者もいる。それら家庭の事情を抱えたまま旅に参加していて、様々なうっぷんが溜まりつつあり、全体的にぴりぴりと苛立つムードがキャラバンを支配していた。途中、一人の粗野な人が「なんでこんなガキが混じってるんだ、おかげで進むスピードが遅くてたまらねえ」と聞こえる様に言った。その時にリーダー格のDがこういう事を言ってその人を諌めた。
「仕方が無いだろう。石板を届けるためには、この11人全員が必要なんだからな。出発の際に一人ずつ割符を持たされただろう。それを石板と同時に収めなければならないんだ。そのためにはこの坊主も必要なんだ。おい坊主、割符はちゃんと持ってるだろうな」
すぐに答えられなかったボクを、それまで無関心を装っていた人も含めて、全員が一斉にぎろりと睨んだ。むさ苦しい男の集団は夜空よりも黒い塊で、瞳だけが不思議と冷たく輝いていた。頑張って砂漠を越えて塔へ辿り着いても、割符が無ければ無効だ。持っていないと言ったらストレスの溜まっている連中に何をされるか分からない。焦ったボクはとっさにうんと答えたが、実際は持っていなかった。持たされた記憶もなかった。代わりに一つの合点がいった。それはボクのお腹に押されたアルファベットの焼印の事。嫌がるボクを父親が押さえつけて司祭が押したのだ。名誉有る印だと言って。恐らくボクの割符はこの焼印だ。
それからもう一つ疑問が湧いた。なぜ他のみんなは男でボクだけが女なのかという事だ。何かの生贄にされるのではないか、と思った。ただし今更逃げ帰る事は出来ない。月明かりに照らされて影が長く伸びている。血の匂いがぷんとした気がする。
***
浮子が14歳になった頃、ぼんやりした彼女をからかう人たちがいた。最初は3,4人のグループがそうしてきた。次いでそれは伝播され、クラス全体が浮子を無視する様になった。最初は笑い者にされる程度だったが、意に介さない浮子の態度が中心メンバーには生意気に映り、そうしてしばらく話し相手がいなくなってしまった。いじめがエスカレートしかけたある昼休みの終わり、浮子は髪にガムをつけられてしまった。彼女はおもむろにハサミで髪をばっさり切って、周囲が唖然としている中、髪をゴミ箱に捨てた。帰宅後、母親にはバレーボール部に入るので髪を切ったと告げた。それから浮子は髪を伸ばすのを止めた。
その内に、比較的仲の良かった子達が浮子に謝った。曰く、皆の雰囲気に飲まれた、合わせないと自分達が対象になるのが怖かった、と。しばらくして最初のグループの一人が新たないじめの対象になった。その時、浮子はその集団の雰囲気を知った。また後で、別の子が対象になって、最終的に卒業前の合唱コンクールの頃には、誰もそういう子はいなくなった。まるでそういう過去が無かったかのように皆が和気藹々としていた。誰か個人が憎かった訳ではなく、憎む対象が必要なだけだったのかもしれない。
浮子にとっていじめの対象になる事は大して苦にならなかった。いじめという排他的な反応は、集団が同時期に成長する過程での「個」の形成活動の中でたまたま顕在化した、ある一つの起こり得るべき事象に思えた。彼女にとってはむしろ子供の頃の感覚、つまり自他の区別がつかなかったの頃に比べ、成長と共にそれぞれが自分の壁を築きつつも平気で交流する事に違和感があり、それが息苦しかった。
同時に、いじめの雰囲気を通して皆が共有している意識が不思議に思えた。その意識は誰のものでもなく「雰囲気」として存在していた。個々人のものでもあり、皆のものでもあった。個として独立しつつその背景には暗号の様な共通の意識があった。皆はそれを自然と受け入れていたが浮子にはそれがうまく飲み込めず、そして誰のものでもないが同時にみんなのものであるその意識の不確かさを恐れた。それは暗く冷たい深海を、救いの無い心境で彷徨う様だった。
***
ボクの父親は元々流れ者で未だに訛りが取れない。北の農耕民族の出身らしい。街に辿り着いてまもなく酒屋の二階で客を取っていた母と知り合い、結果的にボクが生まれた。母親は産後すぐに病で亡くなったのでボクは母のぬくもりを知らない。父のおかげで髪と肌と目の色が周りの子と違ったので子供の頃はよくからかわれた。学校の先生は、みんな珍しがってるだけよと言っていたけれど。父の血はボクの奥底にこびりついて取れない。
母の妹がボクの育ての親だ。この人がお母さんだったら、と何度も思った。その頃伸ばしていた髪を暖炉の前でよく梳いてくれた。でもその内遠くへ引っ越してしまって、そのあと手紙を貰ったけどついに返事が出せなかった。牧場の外からは荒野が広がっていて、ボクは時々そこの柵の上に座って手紙を繰り返して読んだ。その事を知った父が何故かすごく怒って手紙をびりびりに破いた。それでもボクは柵の上で、紙の紙片を大事に握り締めてその人が教えてくれた歌を口笛で吹いた。
〜の峠をわたしが越えやうとしたら 朝霧がそのときにちょうど消えかけて〜
〜その栗の木がにはかにゆすれだして 降りて来たのは 二疋の電気栗鼠〜
街で赤ちゃんを抱いている光景を目にすると心がきゅうと締まった。羨ましくて寝る時に身体を赤ん坊の様に丸めて誰かに抱かれる事を想像した。そしたらどこか懐かしい気がして、悲しくて悲しくて涙がたくさん出た。
***
高校に入った後、布団の中で赤子の様に体を丸めて睡眠が自分を侵食するのを待っている時に、浮子はある印象を抱いた。自分は眼鏡を外し、髪留めを外し、薄い化粧を落とし、身分も感情も落とし、眠ろうとしている。日常と比べ、一個の存在として限りなく原始の状態に身も心も戻ろうとしている。動物までとは言わないものの、自他の意識の薄い子供の様に。そうして眠りの中で夢を見る。
夢の中である友達が現れ、本屋に行く浮子に「○○という本が売っているかどうか確認してきて欲しい」と告げる。そうして本屋に行った浮子はその本を探すがとうとう見つからない。そうして見つからないまま、目が覚めてしまった。学校に出かける準備をしてホームに立っている時に「ああ、友達に本が見つからなかった事を告げねば」と思ったが、すぐに「いや、あれは夢だったのだ」と思い直した。夢は他愛も無い幻だが、その印象は現実より現実的だった。
誰しもが個の意識をほどいて夢に出会う。それは内容こそ荒唐無稽だが、感触は現実のそれの様で。夢は現実と真逆のものなのだろうか。個人は自意識と共に共有意識を持つ。誰しもが夢というもう一つの共有状態を体験する。浮子には、夢がもう一つの現実、現実の別の面に思えた。
***
おい起きろと頭をこづかれてボクは目を覚ました。汗をびっしょりかいている。
ここ数日、頭痛と吐き気が止まらなかった。きっかけはメンバーのある一人が言った石板を届けるための条件を聞いた時だ。条件として、まず石板と、それを届ける割符を持ったグループが必要である事。それから処女の破瓜の血が必要らしかった。このグループは全員男だし、同じ町から別に処女を届けるという話も聞いていない。伝承された条件に変更が無ければ、別の町から女を出す事は無い。
このまま塔を目指して、結果、女がいないから無効だと言われたらどうするんだ、わざわざ家業を中止してまで時間を割いたのに、という者がいる。雰囲気からすでにボクが女であるらしいと、皆薄々感づいていそうだったが、ボクは自分からそう言わなかったし、誰も聞いてこなかった。
仮にボクがその条件として用意された存在だとしても、役立たずだった。ボクは半年前にその資格を既に失わされていた。父がはした金で婚約を取り付け、その二周り年上の野蛮な者の相手をしたのだ。ボクは既婚者であり、もしかすると身篭っているかも知れない。父はその事を知っていたはずだが、条件として処女が必要な事は知らなかった様だ(もしかしたら知った上で、旅に参加させ、自分はその手当てを受け取り、罰はボクが受ければ良いと思っているかも知れない)。
とにかくこの旅は無効となる気がする。一体なぜ自分がこの旅に参加しているのか分からない。逃げだしたら連中に捕まるのが関の山、仮にうまくいってもこんな砂漠の真ん中で一人じゃ生き延びられないのが目に見えている。連中に打ち明けて町に帰ってももう居場所が無い。
なぜボクは存在するのか。なぜ命を持たされたのか。藁にすがる思いで夜空を見上げても、ひょおうひょおうと慈悲の無い魔物の鳴き声みたいな風の音しか聴こえない。
お母さん。
かみさま。
*
小屋があった。天井が朽ち果てている土壁の外には旅用の背の高い動物が座っていて、中からは何かの透き通った音が聴こえた。それは曲というよりシンプルに三つの音を繰り返し重ねたものだった(恐らくミとレとファのシャープだった)。動物はボク達を横目で一瞥し、すぐに無視して暗闇を眺めていた(まるで何か神聖なものがあるかの様に瞳を澄ませていた)。
中を覗いてみると焚き火の前に鎮座した小さな老婆が居た。その高級そうな絹を纏った外国的な佇まいは何とも異様で、老婆は大きな硝子製の水入れのふちを指でぐるぐるとなぞっていて、音はそこから発せられていた。
ボク達が話しかける前に老婆は「ムズクカルの石板キャラバンだね」と言ったので驚いた。噂は聞いているよ、と老婆は水煙草をぼこぼこいわせながら続け、ボク達を中へ招いた。
老婆曰く、彼女は流浪の医者であり地質学者であり占い師で、旅の途中らしかった。ボク達が保存食のサボテンの切り身を食べようとすると彼女はにやついて、それは止した方が良いと言った。食料が尽きかけたボク達は途中に生えているそれで渇きと飢えを癒していたのだ。サボテンには微量の毒が含まれていて、頭痛、吐き気、眩暈を引き起こすという。
確かにその症状は全員に見られた。代わりに解毒剤を売っても良いと彼女は持ちかけてきた。ばあさんそれはありがたいが見ず知らずのあんたをどうやって信用すればいいのかね、と一人が言った。老婆は、ならば診察をしてやろう、旅を続けて色々ガタが出ている頃だろう、なあに金は取らんから安心するといい、と言って一人の身体を色々と調べた。そして足首の捻挫、歯痛、内臓の問題に至るまでぴたりと言い当てた。
それからは順番に診察が始まった。一人ひとり念入りに診るため時間がかかり、ボクは一番年下だから後回しにされた。診察が終わったものは皆何かしらの薬を購入しており、満足したのか先に寝てしまった。ボクは焚き火をぼんやり眺めながらサボテンを食べていた。
サボテンは苦い。一番最初に食べた時は、げえげえ吐いてしまって辛かったが今では大丈夫だ。むしろ何かゆるやかに迫り来る様な快感が脳の後ろからじんわり広がって、やがて恍惚となれるのがボクは好きだった。唯一、トゲを奥歯で噛むと硬い感触が得られた。そうして夢とも現実ともつかない何か膜に包まれた中で、色彩豊かなまぼろしにまみれて寝てしまうのだ。この旅がどうなるのかという不安もあってボクはとっとと訳が分からなくなって寝てしまおうと思っていた。膝の上に冷えた砂をちょっと乗せてじっと眺めてる。一粒ひとつぶの形、大きさ、色などは微妙に違う。たくさん集めれば高価とされる粒もある。何の価値も無い粒もある。そしてそれらが混在して広大な大地を構成している。
*
うとうととしていると、老婆がさあお前の番だよと声をかけてくる。見ると他の連中はもう寝てしまっている。ボクは必要無いと言ったが、遠慮する事はないとひっぱられた。
焚き火の前で老婆ににんまりして、私とお前が偶然出会ったと思うかと聞いてきた。
「…?偶然じゃないの?」
「お前に会いにきたんだよ。お前の事は知っている。キャラバンのメンバーの一人だが、たった一人処女として選出されたんだ。腹に焼印があるのも知っているさね」
「…」
「それからお前がもう既に処女ではない事もね。そもそものお前の役目は王の子を身篭る事だったのだが、処女でない事が知れればお前もろともキャラバンの連中は嬲り殺される。勿論置いてきた家族も」
「…」
「まあそんな事はお前にはどうでも良いだろうね。むしろどこかでそうやって圧倒的な力で命を握りつぶされる事を望んでいるだろうしね。それよりこれを見てご覧」
老婆が取り出した水晶を覗き込むと、塔の最上階に寝そべる影があって、そしてその存在は何か虹色に光るものを眺めていた。
「これは…?」
「王さね。王は実を見ながらお前が来るのを待っている。お前と共にこの幻覚作用のある実を食べてそうしてお前を孕ませるつもりなのさ」
月明かりがさあっと王の顔に差した。そうして見えた顔は異様そのものだった。耳、鼻、唇などがほぼ破損していたからだ。ボクは思わず血の気が引いた。
「むごい顔をしているだろう。この実を服用した結果さ。こんなものが今の都じゃ高価に取引されてるんだ。まあ良い、こっちのを一寸見てご覧」
別の水晶を見てみると、中にはボクが映り込んでいた。きらきらとした乱反射の水面に、寝ているように浮かんでいた。そこは見るからに静かで優しそうな所だった。
「いいかい。お前の魂をわたしに売るんだ。そうすればお前はこの水晶の中の様にしばらく存在していられる。売れねば王に殺される」
「…売る?」
「そう。買ったわたしはお前にそっくりの者を王に送る。そして息の根を止める。お前に詳しく話す必要は無いが、わたしは王殺しをしようとしているのだよ」
しわくちゃの顔、曲がった背骨、あと幾年も生きそうもないのに、老婆は己の使命に囚われている。
「水晶の中の水中でボクは生きるの?」
「中じゃあない。ここではない所さね。これは海というものだ、お前は見た事が無いだろうがね。今お前が生きているこの世界よりかはよっぽどましな所さ」
「…なぜ王を殺すの?」
「殺されるべき存在だからさ」
「…なぜボクがこの旅に選ばれたの?」
「選ばれるべき存在だからさ」
「…なぜそういうボクがいて、旅のメンバーがいて、王がいて、殺すあなた達がいるの?」
「それぞれそういう存在だからさ」
「…なぜ憎しみがあるの?」
「憎み、憎まれるべき存在があるからさ」
「…なぜいのちがあるの?存在があるの?」
「じゃあ聞くが、なぜ『なぜ』とお前は思うんだい?そんな根掘り葉掘り聞いても答えはないよ。今お前にあるのは絶望だけさ。それを売っちまえば静寂が得られるんだ」
水晶の中のボクは青白い顔をして、でも安らかに横たわっている。ボクの心はその光に囲まれた場所に惹かれてしまっている。
「どうすれば売れるの…?」
老婆はにんまりして古い紙を取り出した。
「簡単さね。この紙にサインをして、それから腹の焼印の皮を切り取るだけさ。なあに痛くないようにするさ」
そしてボクは言われた通りに「et jumalte sidyhaha waltra warla」とサインをし腹を差し出した。
***
晴天の下、フロートはホームで電車を待っている。古びたホームはもう崩れかかって苔が生えている。他には誰もおらず、周囲はまったく静かだった。水が足元までひたひたにきている。透明な水には色とりどりのきらきらした粒が混じっていて、それぞれが光を反射させている。線路側の水面に淡い波紋が音も無く揺れている。ふいに赤い公衆電話が鳴るのでフロートは出てみる。
「…カーニバルにゆくのかい?」
「うん」
「ならシルクムーンのアップルサイダーを飲むといい。そう景気付けとげんを担ぐためさね」
そうして電話は切れた。直に、向こうから水を押しのけて横にまあるく太った電車が来る。フロートの前で停車し扉が開き、フロートは乗り込む。どぷりどぷりと電車は水を押しのけて発車する。
*
大地と空を粉雪が覆っている白い地帯をフロートはゆく。太陽が真上にあるが、もやで光は不透明だ。おかげで太陽を直視できる。ほの黒い輪郭。遠くでバイクの走る音が篭って聞こえる。
直にストロボの様に、辺りが光ったり暗くなったりする。瞬きのタイミングがズレるとずっと真っ暗な状態が続くが、合うとずっと明るい。そうして先に進むと真っ白い滝が垂直に落ちていた。バイクと思っていた音はその音だった。古い木の板が立てられていて、そこには「水の音はミとレとファのシャープだけ」と書いてあった。
*
巨大な壁に行く手を阻まれ、仕方がなく沿っていくときらびやかな入り口が見えた。それは大きな遊園地だった。中に入ると遊戯は全て動いているが、誰も居ない。ライトが舞い、設定された音楽が繰り返し流される。一見すると楽しい雰囲気だけれど、それらの設定された事象の他には、フロートのこつこつという靴音しかない。
その中を通り過ぎて行くと、急に園がばっさりと途切れていて先には広大な水たまりがある。中に入ってみると案外浅く、腰の辺りまでしかなかった。しかし潜って底を見ると、それは透明な硝子で下と区切られているに過ぎず、硝子の下にはまた水があった。じゃぶじゃぶと進んでいると、白い細長いものや黒い平べったいもの等が時折下を通り過ぎるのが見えた。それは恐らく、現代には語り継がれなかった昔のかみさまの名残だった。
*
砂漠をフロートは、電信柱と電線を頼りにずんずん行っていた。太陽がでらでら出ていたが決して暑くなく、むしろ肌寒かった。風がまったくなかった。その内、ぽつんと公衆電話があった。そこでハーフパンツにTシャツで、シャワー後の様に長い髪が濡れている少女が電話をしていた。彼女はなにやら怒っていて、通り過ぎる浮子をぎらっとにらんだ。そして電話の相手にまくしてる。
「だからさ、『ミーロの歌』ってCDだよ。今週返してくれるっていったじゃん。…え?お姉ちゃんが持ってるかもって?なんで勝手にお姉ちゃんに貸してんのしんじらんない」
少女の声が段々遠ざかる。
***
浮子は友達と一緒に図書館に来ていて、途中休憩で外の自動販売機の所に座り、紙パックのジュースを飲んでいた。友達がねえ知ってると口を開く。
「ミルフィーユってあるじゃん?あれってさ、フランス語なんだよね。『ミル』は『千』って意味らしいよ。で、『フィーユ』は『葉っぱ』でさ、『千の葉っぱ』って意味なんだってさ」
「じゃあ葉っぱを何枚も重ねた感じって事かあ」
「でもさ、実際はバラバラのを重ねてるんじゃなくて、元の一枚を薄く延ばして折りたたんでるんだって。だから元は一つなんだよね。んでさ、ホントの発音は『ミルフイユ』なんだって。日本の『ミルフィーユ』ってだと『フィーユ』は娘って意味になるんだって。だから『千人の娘』って事になっちゃうよね、あっはは」
また中に戻った後、浮子は先ほどまで読んでいた脳みそについての本をまた読もうと思った。その本によれば、脳の細胞一つひとつが電気信号で交流して脳を構成しているらしかった。その構造は分かるけど、どうして電気が肉に通ると意識が存在するの?機械みたいに作動しているだけなの?浮子は本の片隅に「現実現実」と書き付けた。私がいるのでさえ不思議なのに、みんながいて、世界があって、何なの現実は。脳が見せる幻?
恐らく、一人ひとりが個として壁を持って存在してるのに、どこか意識を共有している。現実に一人が死んでも全体に特に支障は無い。脳の一細胞も同じ?輪廻転生というけれど、死んだ後の魂は現実の中に留まってまた再生するのか、別の世界に一度行くのか。大体魂が一つだという前提は正しいのかな?そもそも個といっても、本能的に怒ったり、生理的に泣いたり、個性的に笑ったり、キャラクタとして喜んだりするよ。どれが本当にわたしだなんて言えない。
今、浮子として存在している魂は一つの面に過ぎず、どこか違う場所で同じ魂が別の環境で存在しないのかな。睡眠の夢の妙な現実感・・・夢は現実の真逆の存在ではなく、もう一つの面、もう一つの現実なんじゃないかな?さっきの友達の言葉が気にかかる。ミルフィーユは元は一つで折り重なって構成されている。千人の娘。フォークを刺す時、ミルフィーユの一層目と二層目と…が同じフォークで同じ様に貫かれる。フォークは何かな。
無意味な考えにはまって、ぐるぐる考える浮子はなんだか怖くなってしまって席を立った。トイレで手を洗うと幾分落ち着いたので、本棚をうろうろして気分を散らそうと思った。自分の意思で本を選ぶのがおっくうになったので、まず適当な数字を頭に浮かべた。そしてその数だけ歩を進め、その前に並んでいる中から、目を瞑って一冊の本を取った。そして適当なページを開いて中を見るとこんな一文があった。
「すべての見えるものは見えないものに触っている。
すべての聞こえるものは聞こえないものに触っている。
すべての感じられるものは、感じられないものに触っている。
そしておそらく、すべての考えられるものは考えられないものに触っているのだろう。」
と書いてあった。
浮子は息が止まりそうになって、一瞬でこの言葉に心を貫かれ共鳴した。確かにかのNovalisという詩人と浮子は同じ意識を共有していた。国も環境も言葉も時代さえも超えて。その夢うつつの感じをじんわりと心で感じていた。
***
砂漠はやがて荒野になり、青々とした空の下をハイウェイがずっと延びていて相変わらず電柱がぽつんぽつんと並んでいた。電線の影を見ながら、どんどん行くと、途中の小屋に電線が引き込まれていた。中を覗くと、古い机の前にヒゲの男が座っていた。何をしてるのと聞くと、眩しい顔をして日焼けした男は、ああ蜃気楼を眺めているという。そしてフロートを小さな椅子に座らせ、冷蔵庫から取り出したコーラの蓋を机の角でぱきんと外し、泡が吹き出ている状態で渡してきた。
男は調査員だった。
「ここに黒い電話があるだろ。電話が鳴ったら、この赤いボタンを押すんだ」
「何のために?」
「調査さ。大事な仕事なんだ。俺は誇りを持ってるし、俺の事をママも誇りに思ってる」
「いつ鳴るの?」
「まちまちだな。そんな頻繁にならないよ」
「じゃあ暇だね、こんな荒野で」
「そうでも無いさ、小屋の裏のジープを見たかい?俺の自慢だよ。あいつに乗ってぶっとばすと最高の気分だぜ。それからトカゲのデッサンをするのが好きだな。こいつを見てくれ」
そういうと男は大量のトカゲの絵を見せて嬉々として、これはこの種の何たらで、と薀蓄を聞かせ、その後ジープにフロートを乗せて、どうだ最高だろと言った。二人はどこまでもどこまでも夕日に照らされた荒野を駆けた。
フロートは、なぜこの男がこの生活に耐えられるのか、と思ったが、なぜと考えるのはもう止めにした。
*
丘を越えると平原が広がりその向こうの遠くに海が見えた。緩やかな下り坂をおりていくと、うっそうとした森に入り込んだ。森の中に切り開かれた一本道をゆくと、やがて分かれ道があった。その分かれる地点で二人の男が言い合っている。
「これは?」
「おわりの日だ」
「これは?」
「これもおわりの日だ」
「これは?」
「これもそう」
「これは?」
「これも」
「これは?」
「これも」
…
*
海沿いの道を行くと、博物館に大きな柔らかそうなものが覆いかぶさっていた。それはタコの様な触手を持ち、ウミウシの様に色彩豊かで、クラゲの様にぽよんとのっぺらぼうだった。それの建物より大きな生物はゆっくりうにうにと動いていて、建物からワアワアと逃げ出す人や、棒でびしびしと生物と戦っている人がいた。周りには小さな子供の集団が体育座りをしてにこにこしながらその光景を眺めていた。フロートはその騒動を尻目に館に入った。
細長い構造の館内は、しいん、としていて照明が落ちていたのでひんやりした雰囲気だった。展示ケースは並んでいるが、展示物自体は無かった。大理石の壁はぴかぴかで、赤黒い絨毯の上をとむとむとずっと奥まで進んだ。
地下へ続くはしごがあったので、降りてみると地下道が広がっていた。真ん中に水が流れていて、ぽつんぽつんとライトが点っていた。とても寂しい無機質な中、フロートはどこまでも進んだ。流れる水の中には時々光る塊が転がっていた。
*
地下道を抜けると、がやがやとカーニバルに向かう数え切れない程の人々がいた。向こうの方に光る巨大なテントが見えた。あちこちで出店や見世物があり、音楽が打ち鳴らされていた。
雑踏とまばゆい照明がごった返す中、フロートの目を引いたのは何かきらきらするものがどっさりあるワゴンだった。どれもこれも可愛らしいカラフルなプラスチックの安物だった。何の役に立つのか分からないものも多かった。その中で彼女は虹色の小さなえんぴつ削りに惹かれて購入した。
ある出店では、子供達が大砲の様なものを操作して、空のもやに光線をばちばち投げかけるのがあった。子供達は口々に「WALTRA WARLA!」と叫びながら打ち込んでいた。
やがてテントの入り口に辿り着くとそこでは入場手続きが行われていた。太っちょの係員がフロートに「さあお腹を見せて」と言う。彼女がお腹の印を見せると、頭から白い粉を被せられ真っ白にさせられた。「境界を越えるためには全身白くならないとね」との事だった。粉には香料が混じっているようで、あまり匂っていると酔ってしまいそうだった。辺りにいる人達はみな裸で真っ白なので、誰が誰だか分からなかった。
どきどきしながら中に入ると、すぐにフロートは体が脱げてしまって一つの光の塊になって意識が朦朧とした。隣の光に「カーニバルの王様は?司祭は?」と聞くと「みんなが王様だよ、君が王様だよ、みんなが王様だよ」と回答があった。
「どうして?みんなが王で私も王だなんて」
「円だよ。中心は一つだろう?でも周囲の角度は無限だよ。そして全体で円という一つのものだよ。君は欠けられないよ。対角線の君が消滅しちゃうからね。あっはは、はっはは」
そうして個々の光が集合して大きな光になったから、どれか何で誰なのか分からなくなってフロートはただただ揺蕩っていた。
光の乱反射の中にいる様で、波の様なうねりと合唱の様な響きにまみれていた。次第に、ひときわ強い光が向こうから順番に回ってきて、それがフロートを包んだ時、周囲の光が「さあ王様、あなたの番、さあ王様、さあさあさあ」と促した。いきなりの意味の分からない問いかけに慌てたフロートの意識は、咄嗟に手に握っていたえんぴつ削りを見た。すると周囲から「王が実を見る、王が実を見る、ほら王が実を見る」と合唱が始まった。
それから色んな言葉が四方八方から聞こえた。
…世界はミルフィーユ、層は隣り合っていてこれから混ざる。元は一つで、重なって、繋がっている。ばあむくうへんじゃないよ。ミルフィーユだよ。層は孤独か、孤独を知るか。繋がっていないと思っているだなんて面白いねえ。さあさあさあ。ほら、光が映る。ほら、光が写る。ほら、光が移る。うつるうつるウツツがうつる。さあさあさあ…
フロートはとっても楽しかったけれど、何かしっくりこなくて、とっても気持ち悪くて、無理をして楽しんでいた。えんぴつ削りの硬い感触だけが頼りだった。その時、光の洪水の端々に影が流れていくのが見えた。それに目をこらしてみると、それはひらひらとした布が作った凹凸によって生まれた影だった。そうだ、ここは何か神秘の国の様だけれどテントの中に過ぎないじゃないか、とフロートは思った。
何度目かの光と合唱のうねりのタイミングで、えいっと布に辿り着き、めくって外に出てみると、テントの様子は装置と影絵による造られた産物過ぎなかった。湿った土の生々しい感触を足裏でしっかりと感じながら、フロートは、
「まやかしだ!まやかしだ!ワルトラワーラはまやかしだ!」
とお腹の底から大声で叫んだ。
すると、あっはははははという笑い声が響いたと思うと、
*
ボクは冷たい砂漠で一人で石の玉を大事そうに抱えて寝っころがっている自分を発見して、
*
ふあああああんっと特急の電車が、ホームに立っている浮子の目の前を駆け抜けて、彼女の髪が真横にたなびいた。そして手に持っていた写真が風で、ぴっ、と持っていかれて、
*
「おいどうしたんだ」
とキャラバン仲間にボクはうなされている所を起こされた。さっきまで持っていると思ってた石の玉は手に無かった。あの医者の老婆は?と聞くと、みんなは何の事だ、寝ぼけているのかと言った。何だ夢だったのかと思ってへたり込んだ。サボテンのトゲが唇に刺さっていて痛い。食べ過ぎたのだろうか、息がサボテン臭い。呆けていると砂の中に何か硬いものを見つけた。それは何かひらべったい茶色の半透明のものだった。試しにそれを介して昼間の太陽を見ると眩しくなく、輪郭がくっきり見えた。
***
浮子が自分の部屋で机に向かっていると、がちゃと扉が開いて携帯電話を抱えた妹が入ってきた。電話に「ちょっと待ってね」と一言言ってから、急いで少しいらだった様子でこう尋ねてきた。
「おねーちゃん、私の部屋からCDもってってない」
「え?」
「『ミーロの歌』ってやつ!」
「知らないよ」
「何かねーおねーちゃんも知らないって言ってるよー…」
そう電話の向こうの人に話しかけながら妹は向こうへ行ってしまった。
そうして浮子は虹色のえんぴつ削りでごりごり削ったばかりの鉛筆で、ノートに物語を書きつけた。タイトルはまだ無いがそれはこんな調子は始まっていた。
「 反対側のホームの向こうに海が見える。
パームツリーがさわさわ揺れている。海面には朝日が乱反射して―

